だから、神は農夫をつくった

美人という理由だけでイヴァンカ・トランプのtwitterアカウントをフォローしているのだが、少し前にこんな投稿があった。

このtweetの下に延々と連なるトランプ嫌いの人々による罵詈雑言リプは置いておいて、これはアメリカの農家を讃え、勇気づける投稿である。

 

アメリカの農業は年間115兆円を稼ぎ出し、アメリカ経済と世界の食卓を支えている。自分がいたインディアナ州はトウモロコシの産地で「Field of Dreams」のような広大なコーンフィールドがあり、機械化されているとはいえハリケーンに襲われたりする中、あんなに広い土地を24時間365日管理して収穫を得るということが気の遠くなるような仕事であることは想像に難くない。

 

イヴァンカがシェアしたこの映像は「スーパーボウル2013」でオンエアされた「Dodge」(ピックアップトラックのブランド)の長尺CMで、農家の写真と共に流れる声は、ラジオキャスターの故Paul Harveyさんが1978年の” Future Farmers of America convention”(アメリカの農家の未来会議)で行ったスピーチ「So God Made a Farmer」(だから、神が農夫をつくった)の抜粋である。

このスピーチを初めて聴いた時、「えっ? “だから、神が農夫をつくった”…何それ?」となったのだが、調べてみるととてもよいスピーチだったので、今日はこれを和訳して紹介したい。

※CMではカットされている部分も含めてスピーチ全文訳しました。

ということで、いつもの「ウンコな商売アイデア」はお休みである。

 

So God Made a Farmer.

And on the eighth day, God looked down on his planned paradise and said, “I need a caretaker.”
So God made a farmer.
そして8日目、神は自らが創造した楽園を見下ろして言った。「この楽園を世話する人間が必要だ」。
だから、神は農夫をつくった。

この冒頭の「つかみ」こそがこのスピーチの一番の見せ場である。

旧約聖書の「天地創造」では

1日目: 神は天と地をつくられた。暗闇がある中、神は光をつくり、昼と夜ができた。

2日目: 神は空をつくられた。

3日目: 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物を芽生えさせた。

4日目: 神は太陽と月と星をつくられた。

5日目: 神は魚と鳥をつくられた。

6日目: 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人をつくられた。

7日目: こうして天地万物は完成し、神は安息された。

…とある。つまり、この「8日目」とは天地万物が完成し、神が休まれた翌日のことである。農夫が偉大な存在であることを伝え、彼らの気持ちを高揚させるビッグアイデアである。

以下、神が「こんな農夫が必要だ」と語っていくのだが、そこに実際の農夫のハードな日々が描かれている。

God said, “I need somebody willing to get up before dawn, milk cows, work all day in the field, milk cows again, eat supper, then go to town and stay past midnight at a meeting of the school board.”
So God made a farmer.
神は言った。「喜んで夜明け前に起き、牛の乳を絞り、一日中田畑で働き、再び牛の乳を絞って晩御飯を食べ、町に向かい、夜中過ぎまで学校の委員会に参加するために起きている人が必要だ」。
だから、神は農夫をつくった。

「仕事終わりで夜中すぎまで学校の委員会に参加する」…などは極めて具体的で、緻密な取材の元につくられたことが想像できる。

また、「So God Made a Farmer.」で各センテンスをくくって繰り返し展開していくのは、キング牧師の「I Have a Dream.」と同じだ。「I Have a Dream.」同様 「So God Made a Farmer.」というキーフレーズが強く頭の中に残る。

“I need somebody with arms strong enough to rustle a calf and yet gentle enough to deliver his own grandchild. Somebody to call hogs, tame cantankerous machinery, come home hungry, have to wait lunch until his wife’s done feeding visiting ladies and tell the ladies to be sure and come back real soon — and mean it.”
So God made a farmer.
子牛をさばくのに十分な強靭な腕を持ちながらも小さな自分の孫を抱くのに十分な優しさを持った人、豚の群れを動かして、やっかいな機械を扱いこなして、お腹を空かせて帰ってきても、妻が来客女性との食事を終えるまで昼食を待ち、彼女たちを「またおいでくださいね」と見送り、心からそう思う人が要る。
だから、神は農夫をつくった。

農家は何となく家長父制的イメージがあったが、実際そんなことはないのだ。「妻が来客女性(ママ友?)との食事を終えるまで昼食を待って見送りまでする」というのは、強い男とは忍耐強く待つ優しい男なのであるということを言いつつも、クスッと笑わせる効果を狙ったのだろう。「Public Speaking」(スピーチ)の授業で「ユーモアを織り交ぜて緩急をつけろ!」と先生に指導された記憶がある。

God said, “I need somebody willing to sit up all night with a newborn colt and watch it die, then dry his eyes and say, ’Maybe next year,’ I need somebody who can shape an ax handle from an ash tree, shoe a horse with hunk of car tire, who can make a harness out hay wire, feed sacks and shoe scraps. Who, during planting time and harvest season will finish his 40-hour week by Tuesday noon and then, paining from tractor back, put in another 72 hours.” So God made the farmer.
神は言った。「子馬が産まれると喜んで夜通し世話をして、死を見届け、涙を拭き、”また来年だな”と言い、木から斧の柄を削り出し、タイヤの塊で馬に蹄鉄を打ち、干し草を束ねる金具、飼料袋、ダメになった靴から馬具をつくり、種撒き・収穫のシーズンは火曜の昼まで週40時間働き、トラクターの運転で背中を痛めて尚72時間働く…そんな人が要る」。
だから、神は農夫をつくった。

このセンテンスの前半を読んだとき、カナダでカウボーイとして働いていた友人の前田将多さんのコラム「カウボーイは、生死を見つめる」を思い出した。彼らが牛や馬の生死と深く関わりながらも、心を乱すことなく、家族のため、世界の食卓のために力強く生きていることが分かる。柔な奴には農夫は勤まらないのだ。

God had to have somebody willing to ride the ruts at double speed to get the hay in ahead of the rain clouds and yet stop in mid-field and race to help when he sees the first smoke from a neighbor’s place. So God made a farmer.
2倍のスピードで轍を突き進み、雨雲の先に干し草を取りに行き、それでも道中で隣人の敷地から煙が上がっているのを見ると、急いで助けに駆けつける人が要る。
だから、神は農夫をつくった。

神に大地の管理を委託されている農夫は隣人と助け合う。決して競い合わない。競争が厳しい資本主義の時代でも、助け合うことは彼らの普遍的な行動規範である。

God said, “I need somebody strong enough to clear trees and heave bales, yet gentle enough to yean lambs and wean pigs and tend the pink-comb pullets, who will stop his mower for an hour to splint the leg of a meadowlark.”It had to be somebody who’d plow deep and straight and not cut corners.
神は言った。「木を切り倒し、ベイルを持ちあげるほど強く、それでいて羊の出産、豚の離乳、まだピンクの肌をした若い鶏の世話をし、ケガをしたマキバドリを見つければ、芝刈り機を1時間とめて脚に添え木を当ててあげる心優しい人、深く真っ直ぐ、サボらずに隅々まできっちり耕す人が要る」。

Somebody to seed, weed, feed, breed, and brake, and disk, and plow, and plant, and tie the fleece and strain the milk. Somebody who’d bale a family together with the soft, strong bonds of sharing, who would laugh, and then sigh and then reply with smiling eyes when his son says that he wants to spend his life doing what Dad does.
So God made a farmer.
「種を撒き、雑草を抜き、餌をやり、繁殖させ、ブレーキを踏み、耕耘機を動かし、耕し、苗を植え、羊毛を束ね、牛乳をこす人。柔らかく強い絆で家族をまとめ、全てをみんなで分かち合う人。笑い、ため息をつき、そして”パパのようになりたい”と言う息子ににこやかな目で答える人が要る」。
だから、神は農夫をつくった。

強くて優しいのは人間の理想像であるが、農夫はその理想を体現しているのだ。

農夫は天地創造の7日間の翌日から神の命を受け、現在まで黙々とハードに働き続けている。今日の私たちの繁栄は彼らの屍の上に成り立っているのだ。このスピーチを聴いて、農家の人たちはさぞかし誇り高き気持ちになっただろう。

因みにAmazonでは”So God Made a Farmer.”の額が販売されている。アメリカの農家にとって、このスピーチが心の支えになっていることが伺える。

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