【レポート】弊社が手掛けた「大岡川 ひかりの川辺 2019」をご紹介します。

はじめに

今年で2年目を迎えた「大岡川 ひかりの川辺」。大岡川は、横浜港を終点とした中村川、新吉田川などを含めて大きな流域を持っており、運河として活用されたことで、港町横浜の発展を下支えした歴史を持っている。

昭和20年5月29日の横浜空襲により、一面が焼け野原になった横浜だが、その後この地域には米軍に施設が置かれて、その需要を満たすためか、日ノ出町周辺に「ちょんの間」が軒を連ね、現在においてもその名残を引きずっている。それが現在の周辺環境における状況である。

「今後このエリアをクリエイティブな人たちが集まるエリアにする」というテーマのもと、水辺のエリアをよいイメージに変えることを目的とした事業構想が横浜市と事業構想大学院大学の間で立ち上がった。その具体的なコンテンツとして、イルミネーションというアイデアがあがり、我々のところに総合プロデュースの依頼が来たのが2018年のことである。

1年目は長者橋と旭橋の間のエリアにフルカラーレーザーを使って演出を行った。一定の評価があったとは思うが、我々はこの結果にも一つの課題を感じていた。それは、この地域に住み、このエリアを魅力ある街に変えたいと願う人と、そうではない人が居て、この人たちの間に理解関係が生まれていないということ。川を挟んで左岸と右岸に、住民たちの川辺に対する温度差があまりにもあるということだった。

春には桜が咲き乱れ、多くの人々が憩いを求めて集まる。運河パレードなど住民が中心となって魅力あるエリアにすべく、素晴らしい施策を行なっているのも関わらず冬のシーズンには、ゴミの投棄が目立つようになる。いくら地域の人々が清掃を行っても数日ともたずにまた投棄されてしまうと言う状況を、目の当たりにしてこの課題をどう克服していくかを2019年の施策の念頭に掲げる所から今年のプロジェクトがスタートした。

新しい産学官の連携事業として

2018年の施策と大きく異なるところは、多数の企業からの協力を得られたことであった。また、横浜美術大学との連携も組み込まれ、産学官連携のプロジェクトとなったこの施策を、どのような成功を目標に設定するかがプロジェクトの肝であると考えた我々は、大学と企業との連携、大学と自治体との連携を模索することになった。

横浜美術大学は、横浜市青葉区にある比較的新しい美術大学である。有名大学が企業の技術開発部門と連携を考えるというようなことには、プロジェクト実施までのスケジュールを考えると時間が短すぎることに加え、理系大学のような研究施設もない美術大学という一見しては、連携に不釣り合いなパートナーシップを、どのように成立させこの地域の施策と紐づけていくかを考える中、我々は一つの結論に至った。

それは、この地域を使い、表現する者にとってこの場所が寛容である状況を作り出すということである。日ノ出町エリアにはアートギャラリーやクリエイティブな活動をする人たちのコミュニティがあり、横浜美術大学のラボもこのエリアにあった。この偶然を如何に生かしていくかを考えた。

学生たちが表現したいことを表現できる場所にし、表現する人たちが集まる場所にすることで、この場所は、クリエイティブな人々が集まる場所に変えていく空気を醸成するという目的を設定し、2019年はまずその土台を作るということに絞り込むことにした。

横浜美術大学に訪れ、やる気のある学生たちを募集し、プロモーション、グラフィック、ライティングの三つの柱をそれぞれの分野において、学生のやってみたいことを我々プロフェッショナルが支えて実現するというスキームを思いついた。

イベントとは、複合クリエイティブ産業であり世の中にあるクリエイティブな仕事がほとんどあると言っても過言ではない。グラフィックデザイン、キャラクターデザイン、映像制作、コンテンツ制作と多くのクリエイティブの要素が束なって出来ているのがイベントである。集まってくれた学生たちにそれぞれのやりたい事を聞いて、そのやりたい事を全てやれるようにサポート体制を整えることが我々の主なミッションとなった。

学生たちは、学校の中では各々が制作テーマを決め、それぞれのスキルの向上を学びながら、言わば個人プレーで作り上げる事を主となっている。それは、美術大学に関わらず、日本の教育は全て個人プレーで各々の課題を克服することが求められるということがほとんどであるが、社会に出るとチームの中でどのような役割を果たすかが問われる。社会人になって3〜5年はチームにおける仕事のやり方に新卒たちは戸惑い、苦労することになる事を私たちは知っていた。

仲間と共にひとつの課題に対して向き合い、クリエイティビティを持ち寄り、その課題を克服する中で生まれるクリエイティブの力を学生たちに感じてもらいたい。チームで仕事することの楽しさを知ってもらいたい。そうすれば、可能性に満ちた学生たちの表現活動はもっと違うものになるはずであるというインサイトを設定した。実際にプロジェクトチームの中に会社組織のような組織内連携を作ることでこのプロジェクトを円滑に進めていく事を我々は考えた。

学年を問わず参加を募ったことにより、先輩と後輩との間に課題解決に向けた協力が生まれるようになった。学生同士が意見しあい、より良いクリエイティブをみんなで導き出す。これが、私たちが考えた新しい産学連携の最重要ポイントであった。

産学連携の企業側の最も大きなメリットは、優秀な人材と出会うことである。開発を行う企業であれば、優秀な開発者といち早く出会うことができ、その研究に投資することで新たな新事業を生み出していくことが可能になるというのが、現在の産学連携の大まかなスキームである。我々が提唱する産学連携の新しいスキームは、イベントの事業の中で企業側がしっかりと学生と向き合うことにより、学生の適性や、その学生の強みをしっかりと理解することで、高いクオリティでのリクルーティングが可能になるということである。

プロジェクト内でのリーダーシップや、アイデアの出し方、自身の役割を理解しその中で最大限の努力をする学生の姿勢を企業側が垣間見ることにより、企業側にリクルーティングにおいて大きなメリットを提示できるようにする。我々は、このプロジェクトを通して、学生たちが自信を持って社会に出る事を、社会の公器である企業がそれを支援する。有能な人材を企業が獲得するために、学生と協働することで新しい産学連携を形づくるというコンセプトを設定した。

将来的には、日ノ出町エリアに於いて学生たちがこのプロジェクト以外にも様々な取り組みに対してクリエイティビティを通じて協働し合える状況を作り出す事で、この地域にクリエイティブな活動に対して寛容な空気を醸成するに至るという成功ビジョンを掲げ、本プロジェクトを実施した。

我々がこのプロジェクトにおいて、提唱したこの新しい産学連携モデルでは、企業側はスポンサーという立ち位置から、大きく変化を求められることになることになります。今後はこの連携に対して、お金を直接的支援するだけの関係から、社内の人材と時間をプロジェクトに使うことを覚悟してもらう必要がある。この連携は、企業と学生が接触する機会を増やすことにつながり、協働を通じて、その適性をしっかりと見ることができ、企業において有益な人材の確保に繋がると考える。また、学生たちに於いては、プロジェクトを通して出会った企業に入り、価値を出していくことをポジティブに捉えることになると思う。

今後の展望

今後の課題として、協力企業に賛同を得ていく動きを我々としては求められるということだろうと考えます。働き方改革がしきりに騒がれる昨今ですが、働き方を考えることと同じくらい、または、それ以上に大切なことは、「働く先の選び方改革」なのではないかと思う。

昨今の「働き方」をめぐる論争の1番の原因は、自身の適性に最もあった企業と出会えていないことがその根本的原因であると我々は考える。

休日を増やし、生産効率を上げることだけでは本質的な解決には至らず、休日を増やした上で、自身の適性に合った仕事内容で活き活きと働けることでさらなる生産性を生んでいくということが、働き方改革の究極の姿なのではないかと我々は考える。

地域の課題と、社会の課題に対して、我々の活動によって貢献できることは何か。
企画やコンセプトを担当する我々には、ますますそのポジションの重要性が問われることになるのだと感じている。

「大岡川 ひかりの川辺」は3ヶ年の計画として2018年にスタートしました。よって来年2020年が一旦の最後の年となります。私たちに課せられた課題をより明確にその解決を目指し、プロデュースを行いたいと考えている。

今年は、そのための実証実験も行われました。イルミネーションを遊覧船から見る夜間航行の実験。食を絡めた取り組みとしてもマルシェ、そして、我々が提案した新たな表現を可能にする富士エレクトロニクスの「Ontenna」を使った新しいイルミネーションの模索。

長年巷には、イルミネーションは光と音楽による空間演出という形を変えずに行われていますが、我々はイルミネーションを新しい形にアップデートするためのキーワードとして「ダイバーシティ」というテーマを取り上げ、この課題に対して取り組むことを提案しました。イルミネーションを目が見えて、耳が聞こえる人に向けてのメディアから、新たにアップデートする目的を掲げ、「Ontenna」を使った世界初の聴覚障がいを持つ人も楽しめるイルミネーションを実現しました。結果として、障がいがある人も、ない人も、子供たちにも楽しんでもらうことができた。

実施の結果、様々な方にその可能性を体験して頂いた。我々は、イルミネーションはこういうものであるという常識を鵜呑みにせず、疑問を抱きその疑問を解決する手法を考えたからこそ、このプロジェクトが成功できたと確信している。

来年、「大岡川 ひかりの川辺」はどのように進化するのか。その真価が来年問われることになると我々は考えています。そしてその重責を我々が果たさなければないという決意もあります。

地域特性を理解し、その場所に必要なものは何か。そして、それを生み出す方法は何か、企画の根本的な役割はそこにあると我々は考える。

何より学生たちが、また来年も参加したいという事を言ってくれた時は、本当にこの企画の意図が伝わって良かったという喜びを感じることができました。1年後、成長した学生たちと再びこのプロジェクトで出会い、そして学生たちをどんな新しいクリエイティブに挑戦できるか、今から「大岡川 ひかりの川辺 2020」が楽しみでなりません。参加したいという企業の方々のご連絡もお待ちしております。

来年もご期待ください。

谷田光晴

 

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